五十肩の回復と予防は漢方で


『五十肩の回復と予防は漢方で』

腕を上げたり、背中へ手を回そうとしたり、何かを取ろうとすると肩が痛いという五十肩の相談をよく受けます。話を聞くと、仕事や日常で肩を動かす頻度が少なく、40歳以降の人に多いです。

五十肩の発生メカニズムを考えてみますと。

日頃、肩を動かなさい又は加齢によって、肩周囲の筋肉、筋膜などの組織が変性します。変性し動かしづらくなっている状態で、急に負荷をかけて動かそうとすると、肩周辺の軟部組織(腱や関節包など)に小さな断裂などが起こり、炎症が生じて五十肩の痛みとなります。

また、最近では肩に新生血管(異常血管)ができることで、栄養や酸素がうまく行き渡らず、かつ痛みを伝える神経が新生血管の周囲に増えることで、五十肩の痛みを生じていることがわかってきています。

上記2つの発生メカニズムを漢方の視点で考えてみると、肩周囲の組織の変性は痰湿(たんしつ)が、異常血管ができるのは瘀血(おけつ)が原因と考えられます。

よって、痰湿を取り除きながら、血の巡りを調えてあげることで、五十肩は回復しやすくなりますし、予防にもなります。また、漢方薬だけでなく肩を動かす体操など、生活習慣を改善する養生がとても大切になりますので一緒にご紹介します。

 


<<漢方薬>>
血、水の巡りの悪さは、冷え、血不足、加齢など様々な要因が絡んでいる為、これらを幅広くカバーできる漢方薬をベースにし、大きな原因となっている要因に対する漢方薬を併用していきます。


ベースの漢方薬
独歩顆粒(どっぽかりゅう)


(急性)
五十肩の強い痛みに(短期間の使用することが多い)


独歩顆粒 + 独活葛根湯(どっかつかっこんとう)

 


(慢性)
血の巡りの悪さ(瘀血)と肩周囲の変性が強い(痰湿)ようであれば


独歩顆粒 + 疎経活血湯(そけいかっけつとう)


冷えから瘀血、痰湿が生じているようであれば


独歩顆粒 + 五積散(ごしゃくさん)


瘀血が強く、便秘が伴っているようであれば


独歩顆粒 + 桃核承気湯(とうかくじょうきとう)


上記は一例です。体質に合わせて、他の漢方薬や組み合わせを変えて提案することもあります。

 


<<養生>>


🟧日頃から肩を動かす体操、ストレッチをとりいれる


「NHK 健康ch」の体操動画がオススメです。リンクを以下に張ります。ご利用下さい

五十肩(凍結肩)を治す体操・ストレッチ 症状をやわらげるセルフケア


🟧血、水の巡りを良くする食材を食事に摂り入れる


痰湿に
白菜、大根、人参、カブ、緑豆もやし、ごぼう、里芋、タケノコ、こんにゃく
海藻類(わかめ、ひじき、昆布、のり)
きのこ類(しいたけ、えのき、なめこ)


瘀血に
玉ねぎ、ネギ、ニラ、にんにくの芽、にんにく、ナス、しょうが、黒酢
青魚(いわし、あじ、さんま、サバ)、シナモン

 


🟧お風呂に入り、しっかり肩を温める

 


五十肩は発症すると、痛みで日常の動作がしずらくなり、余計に身体を動かすことが億劫になりますので、ご紹介した漢方薬と養生で早い回復を目指しましょう。また、五十肩の予防のためにも、日頃から養生をとりいれてもらうことをオススメします。

 


<注意>
本ページで掲載している漢方薬は一例です。
個人の体質、その日の体調、生活習慣、生活環境などにより使う漢方薬は変わります。
漢方の知識を持った専門家(医師、薬剤師、登録販売者)に相談して適切な漢方薬を購入し服用してください。

熊本 菊陽町 菜の花漢方堂

 

漢方で寒さ対策


『漢方で寒さ対策』

数日前から一気に熊本は寒くなりました。
そこで、今回は冬場の寒さに対する漢方薬と養生をご紹介したいと思います。

漢方で寒さは寒邪(かんじゃ)ととらえ、外寒(がいかん)内寒(ないかん)の2種類があります。

外寒は、冬の寒さやクーラーなどで、外から侵入してくる寒さのこと。寒い冬の外や、職場で寒い環境に長時間いることにより、外寒に侵されます。余談ですが、寒邪は風邪を伴って体へ入ってくることが多いです。

内寒は、体の中から発生する寒さです。体を温めるエネルギー不足から冷えを生じる状態を言います。体内の冷えは、臓器の働きを弱め、さまざまな不調をもたらします。内寒は、慢性的に虚弱な方、病後で体力が落ちている方、高齢者、長期間過度なダイエットの方などに多いです。

漢方薬では、温性の生薬(桂枝、乾姜、附子、呉茱萸、鹿茸、紅参など)を主に使い、体を温め、冷えを追い出します。

それでは、代表的な漢方薬をご紹介します。


<<漢方薬>>


◆慢性的な冷え(陽虚)


霊鹿参(れいろくさん)
参茸補血丸(さんじょうほけつがん)


◆手足先の冷え


婦宝当帰膠(ふほうとうきこう)
当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)


◆冷えた飲食物を取ってしまった時の腹痛


人参湯(にんじんとう)
附子理中湯(ぶしりちゅうとう)
小建中湯(しょうけんちゅうとう) <- 小児用


◆冷えからくる頻尿


八味地黄丸(はちみじおうがん)
牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)

 


次に養生をご紹介します。


<<養生>>


🔸温かい衣服で防寒を
特に風邪が侵入しやすい首、手首、足首を寒さから守りましょう


🔸お腹周りをカイロで温める
内寒で熱を作り出すことが弱っている状態の時はカイロで熱を補いましょう。
次の2箇所にカイロを貼ることをオススメします。
腹側 へその下あたり
背側 お尻の上、仙骨あたり
※カイロを長く貼付することでの低温ヤケドにはご注意ください


🔸冷たい飲食物は、極力控える
体の外を防寒していても、体の中に冬を作ってしまったら台無しです。温かい食べ物を摂り、体の中も冷やさないようにしましょう。


🔸体を温め陽気を養う食材を摂る
にら、ねぎ、しょうが、にんにく、しそ
かぼちゃ、山芋、きのこ類、大豆製品、えび、羊肉、紅茶、シナモンなど


🔸温かいお風呂にしっかり入る
温かいお風呂に入ると気血水が手先足先まで巡るので、冷えに効果的です。


🔸適度な運動を行う
体を動かせる方は、少し息が上がるくらいの運動を1日30分くらいできると良いです。お風呂と同じで、気血水が手先足先まで巡り冷えに効果的です。

 


寒い冬を温かく乗り切るために上記の漢方薬と養生がお役立てれば幸いです(^^)

 


<注意>
本ページで掲載している漢方薬は一例です。
個人の体質、その日の体調、生活習慣、生活環境などにより使う漢方薬は変わります。
漢方の知識を持った専門家(医師、薬剤師、登録販売者)に相談して適切な漢方薬を購入し服用してください。

熊本 菊陽町 菜の花漢方堂

腹痛(胃痛)


腹痛(胃痛)は、原因が1つではなく重なっていたり、下痢、吐き気などの症状を伴ったりと複雑です。
原因は様々ですが、ここでは、相談でよくある4つの原因に絞って、腹痛が生じる機序を説明し、対応する漢方薬の一例をご紹介します。


1)冷え
2)瘀血
3)気の滞り
4)水の代謝が悪い

 


1)冷えからくる腹痛


冷えの腹痛は、2つに分けて考えることが多いです。


1つ目は、冬の寒い時期や夏場のクーラー、冷たい飲食物の摂りすぎなどで体に冷えが入り込み腹痛が起こる場合です。
急性で痛みが強い腹痛であることが特徴です。


<漢方薬>
附子理中湯(ぶしりちゅうとう)
人参湯(にんじんとう)
大建中湯(だいけんちゅうとう)
小建中湯(しょうけんちゅうとう)


(補足)
外からの寒邪が原因の場合は、散寒と言って体内の寒さを散らす薬を用いて痛みを緩和していきます。また、冷たい飲食物によって脾胃が湿も伴っている場合は、去湿といって湿を取り去る薬も用いて、痛みの原因を取り除きます。


2つ目は、過度な疲れ、長期間の病気等で体が弱ってしまい、体内の温める力(温煦作用)が弱まり、冷えが生じて腹痛が起こります。
繰り返し起こる腹痛であることが特徴です。


<漢方薬>
健胃顆粒(けんいかりゅう)
人参湯(にんじんとう)
大建中湯(だいけんちゅうとう)
呉茱萸湯(ごしゅゆとう)


(補足)
体が弱り冷えを生じての腹痛は、温裏散寒といって、温めて寒さを散らす薬を用いて、痛みを緩和させます。そして、補気健脾といって、元気を作り出す元となる脾胃を立て直す薬を用いて、腹痛が起こりにくい体へ持っていきます。

 


2)瘀血からくる腹痛(主に生理痛)


生活習慣の悪化、長期化した病などがあると、血に熱をもったり、血を送り出す力が弱くなったり、血の量が不足したりして、血の停滞/巡りが悪くなる状態(瘀血:おけつ)を生じます。
血の巡りが悪くなり、血が行き渡らないと痛みが起こります。
この痛みは部位が固定して、刺すような痛みが特徴です。
生理痛は、瘀血が主な原因であることが多いです。


<漢方薬>
桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
婦宝当帰膠B(ふほうとうきこう)
桃核承気湯(とうかくじょうきとう)
折衝飲(せっしょういん)


(補足)
活血化瘀と言って瘀血を解消すると共に、熱があれば熱を取り去る薬、血が少なくなっていれば血を補う薬、血を動かす力が不足していれば気血を巡らす薬と、体の状態に合わせて漢方薬を使い分けて、痛みを緩和し、腹痛が起こりにくい体へしていきます。

 


3)ストレスなどからくる腹痛


ストレス、強い緊張などがあると体の気の巡りが悪くなります。気は血を動かす推動力でもあるので、血の巡りも悪くなります。

気血の巡りが悪化、停滞すると、脾胃の機能失調をおこし、痛みが発生します。張ったような腹痛が生じるのが特徴です。


<漢方薬>
開気丸(かいきがん)
柴胡疎肝湯(さいこそかんとう)
柴芍六君子湯(さいしゃくりっくんしとう)
香砂六君子湯(こうしゃりっくんしとう)


(補足)
気の巡りを良くするお薬を用い、痛みを取り除いていきます。ストレスにより脾胃も傷んでいる場合は、脾胃の機能を立て直す薬も使います。また、気の停滞により脾胃に熱、湿が発生している場合は、それらを取り去る薬を用いることがあります。

 


4)水の代謝の悪化による腹痛


冷たくなくても過度に飲み物を摂取したりすると、胃腸機能が低下し、水がさばけず、腹痛が発生します。急性で、下痢を伴うのが特徴です。


<漢方薬>
加味平胃散(かみへいいさん)
五苓散(ごれいさん)
藿香正気散(かっこうしょうきさん)


(補足)
水をさばく作用(利水作用)のある薬を用い、原因のもとである水を取り除くとともに、多量の水分によって、湿・冷えが生じている場合は、それらを取り除く薬も用いて腹痛を改善していきます。

 


<注意>
長く腹痛が続いていたり、痛みが強くなっている場合は、病院での検査を推奨しています。
漢方での対応も有効ですが、検査結果次第では、西洋治療と漢方を併用することで治りが早い場合があります。