腹痛(胃痛)


腹痛(胃痛)は、原因が1つではなく重なっていたり、下痢、吐き気などの症状を伴ったりと複雑です。
原因は様々ですが、ここでは、相談でよくある4つの原因に絞って、腹痛が生じる機序を説明し、対応する漢方薬の一例をご紹介します。


1)冷え
2)瘀血
3)気の滞り
4)水の代謝が悪い

 


1)冷えからくる腹痛


冷えの腹痛は、2つに分けて考えることが多いです。


1つ目は、冬の寒い時期や夏場のクーラー、冷たい飲食物の摂りすぎなどで体に冷えが入り込み腹痛が起こる場合です。
急性で痛みが強い腹痛であることが特徴です。


<漢方薬>
附子理中湯(ぶしりちゅうとう)
人参湯(にんじんとう)
大建中湯(だいけんちゅうとう)
小建中湯(しょうけんちゅうとう)


(補足)
外からの寒邪が原因の場合は、散寒と言って体内の寒さを散らす薬を用いて痛みを緩和していきます。また、冷たい飲食物によって脾胃が湿も伴っている場合は、去湿といって湿を取り去る薬も用いて、痛みの原因を取り除きます。


2つ目は、過度な疲れ、長期間の病気等で体が弱ってしまい、体内の温める力(温煦作用)が弱まり、冷えが生じて腹痛が起こります。
繰り返し起こる腹痛であることが特徴です。


<漢方薬>
健胃顆粒(けんいかりゅう)
人参湯(にんじんとう)
大建中湯(だいけんちゅうとう)
呉茱萸湯(ごしゅゆとう)


(補足)
体が弱り冷えを生じての腹痛は、温裏散寒といって、温めて寒さを散らす薬を用いて、痛みを緩和させます。そして、補気健脾といって、元気を作り出す元となる脾胃を立て直す薬を用いて、腹痛が起こりにくい体へ持っていきます。

 


2)瘀血からくる腹痛(主に生理痛)


生活習慣の悪化、長期化した病などがあると、血に熱をもったり、血を送り出す力が弱くなったり、血の量が不足したりして、血の停滞/巡りが悪くなる状態(瘀血:おけつ)を生じます。
血の巡りが悪くなり、血が行き渡らないと痛みが起こります。
この痛みは部位が固定して、刺すような痛みが特徴です。
生理痛は、瘀血が主な原因であることが多いです。


<漢方薬>
桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
婦宝当帰膠B(ふほうとうきこう)
桃核承気湯(とうかくじょうきとう)
折衝飲(せっしょういん)


(補足)
活血化瘀と言って瘀血を解消すると共に、熱があれば熱を取り去る薬、血が少なくなっていれば血を補う薬、血を動かす力が不足していれば気血を巡らす薬と、体の状態に合わせて漢方薬を使い分けて、痛みを緩和し、腹痛が起こりにくい体へしていきます。

 


3)ストレスなどからくる腹痛


ストレス、強い緊張などがあると体の気の巡りが悪くなります。気は血を動かす推動力でもあるので、血の巡りも悪くなります。

気血の巡りが悪化、停滞すると、脾胃の機能失調をおこし、痛みが発生します。張ったような腹痛が生じるのが特徴です。


<漢方薬>
開気丸(かいきがん)
柴胡疎肝湯(さいこそかんとう)
柴芍六君子湯(さいしゃくりっくんしとう)
香砂六君子湯(こうしゃりっくんしとう)


(補足)
気の巡りを良くするお薬を用い、痛みを取り除いていきます。ストレスにより脾胃も傷んでいる場合は、脾胃の機能を立て直す薬も使います。また、気の停滞により脾胃に熱、湿が発生している場合は、それらを取り去る薬を用いることがあります。

 


4)水の代謝の悪化による腹痛


冷たくなくても過度に飲み物を摂取したりすると、胃腸機能が低下し、水がさばけず、腹痛が発生します。急性で、下痢を伴うのが特徴です。


<漢方薬>
加味平胃散(かみへいいさん)
五苓散(ごれいさん)
藿香正気散(かっこうしょうきさん)


(補足)
水をさばく作用(利水作用)のある薬を用い、原因のもとである水を取り除くとともに、多量の水分によって、湿・冷えが生じている場合は、それらを取り除く薬も用いて腹痛を改善していきます。

 


<注意>
長く腹痛が続いていたり、痛みが強くなっている場合は、病院での検査を推奨しています。
漢方での対応も有効ですが、検査結果次第では、西洋治療と漢方を併用することで治りが早い場合があります。

症状別漢方<目次>(五十音順)

症状別漢方 目次 (五十音順)

参照した症状をクリックしてください。


か_花粉症


か_関節痛


か_風邪


こ_更年期


す_頭痛


せ_生理痛


ち_痔


ひ_冷え性
1)手足の冷え
2)下半身の冷え
3)お腹あたりの冷え
4)体全体の冷え


ひ_疲労(疲れ)


ひ_貧血


ふ_腹痛


へ_便秘

便秘


便秘は、”一過性(急性)”と”習慣性(慢性)”の2つに分けることができます。


◆一過性便秘(急性の便秘)


🔹旅行先、新学期、就職などで食生活や生活環境が変わった
🔹受験のテスト前、大事な発表会を控えている、就職で生活環境の変化などの精神的要因
🔹暴飲暴食、食事の偏り(肉ばかり食べる等で食物繊維が少ない、ダイエットで食事を摂っていない)
🔹生理前の便秘
🔹汗を大量にかいて、急激な体内の水分低下による腸管内の水分不足
※漢方薬も使いますが、水分補給が優先です


などにより、大腸の動きが鈍るために起こる便秘です。

主に大黄を含む漢方薬を使い便秘に対応します。以下に一例を紹介します。


・便秘の他に気になる症状がない場合
大黄甘草湯(だいおうかんぞうとう)


・食欲旺盛。また、ほてりなどの体に熱を伴う場合
防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)


・便が乾燥して固くて出にくい場合
調胃承気湯(ちょういじょうきとう)


・上半身にほてりがあるが下半身は冷える。また、月経前にイライラする場合
桃核承気湯(とうかくじょうきとう)


・イライラや発熱がある場合
大承気湯(だいじょうきとう)


※冷え性、痩せ気味で少食の人は、服用前に医師、薬剤師、医薬品登録販売者などの専門家へ相談しましょう。
また、漫然と長期で使わず、頓服的な使用をお勧めします。長期に服用する場合は、服用前に医師、薬剤師、医薬品登録販売者などの専門家へ相談しましょう。

 


◆習慣性便秘(慢性の便秘)
繰り返し長く続く慢性的な便秘の事を指し、直腸性弛緩性痙攣性の3つタイプに分けられます。
各タイプを説明し、漢方薬の一例を紹介します。


<直腸性タイプ>
頻繁に便意を我慢することで、便が直腸にあっても便意が伝わらず起こる便秘です。


・仕事上不規則な排便習慣になる方(バス・タクシーの運転手など)
・便意を我慢してしまう女性に多い


大黄を主体として漢方薬を使って、大腸を刺激して便意を起こし、便秘を改善していきます。


大黄甘草湯(だいおうかんぞうとう)

 


<弛緩性タイプ>
大腸の運動機能が低下して、便を送り出す力が弱くなっておこる便秘です。
高齢者や寝たきりの方などに多く、お腹の張りを感じることがあります。
枳実・厚朴・陳皮などを配合する漢方薬を使い、腸の蠕動運動を活発にさせて便秘の改善をはかります。


麻子仁丸(ましにんがん)

 


<痙攣性タイプ>
大腸が痙攣(けいれん)して、便の通りが悪くなり、便意はあるが排便できず便秘になります。また、腹痛を伴うことがあります。麻子仁、桃仁などで腸管内を潤し便の通りを良くし、枳実・厚朴などで腸管の運動を整える漢方薬で便秘の改善をはかります。けいれん性の腹痛を伴う場合は、芍薬という生薬が、腸管の筋肉を弛緩させて対応します。


麻子仁丸(ましにんがん) または 潤腸湯(じゅんちょうとう)

痙攣性の腹痛が強い場合は、以下を合方する
芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)

 


便秘は、漢方薬と並行して次の養生を実践することで回復が早まり、再発防止に繋がります。


<養生>
a)よく噛んで食べる
b)腹八分目で食べすぎない
c)冷たい飲食物は極力控える
d)食物繊維の豊富な食材をバランス良く食事に加える


玄米、胚芽米、麦めし、とうもろこし
煮豆(大豆、うずら豆、あずき)、納豆、おから
ごぼう、ふき、セロリ、アスパラガス、青菜類、キャベツ、白菜
さつまいも、里いも、こんにゃく
しいたけ、しめじ、えのき
わかめ、ひじき、もずく、寒天、ところ天
柑橘類(みかん、グレープフルーツなど)、バナナ、うり類


e)適度な運動を行う
f)夕食と寝るまでの間を3時間以上あける
g)間食は極力控える。特に寝る前は間食をしない。
h)早寝早起きして、朝に排便するリズムを作る

 


漢方薬だけに頼らず、上記養生で生活習慣を見直し、毎日お通じがくる体作りを目指しましょう(^^)
上記に漢方薬をご紹介していますが、漢方薬の選択に迷う場合は、お気軽にご相談ください。



<注意>
本ページで掲載している漢方薬は一例です。
個人の体質、その日の体調、生活習慣、生活環境などにより使う漢方薬は変わります。
漢方の知識を持った専門家(医師、薬剤師、登録販売者)に相談して適切な漢方薬を購入し服用してください。

熊本 菊陽町 菜の花漢方堂